美術(史)的な評価と「気に入る」ことについて

美術作品の評価には、その美醜以外に、美術史の視点が大いにかかわります。 美術教育の現場、美術館、賞レース、ギャラリー、コレクターなどアート関係者は、モチーフと表現技法の面から美術史上の作品、作家との影響関係と新規性を問い質します。

ただ、美術史を専門的に学んでいないその他大勢にとっては退屈な議論になりがちです。同じギャラリートークでも、学術的立場から解説するものと、作家が自身の経験を織り交ぜ語るものでは往々にして雰囲気が異なります。

良い/悪いだけでなく、好き/嫌い、あるいは親近感を感じるか、といった価値指標を設定できないかと考えます。

「良い/悪いから好き/嫌いへ」(2019年2月11日)

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先日尾道市立大学修了制作展に伺い、尾道市立大学美術館でギャラリートークを拝聴し、サテライトスタジオでも作品を拝見してきました。

大学院修了生の人数はそれほど多くないので、それぞれが悩み考え努力した筆跡が文字通り見て取れる展示で、親近感を覚えながら鑑賞しました。

椿野聖梨さんの思い描く理想の「空」の作品。テーマとしては古典的だし、個性あふれる筆致ということもない。けれど、どんなに斜に構えたところで魅力的としか言いようがないと思うのです。

もうひとつ、レインボー倉庫で行われている壁画ペインティング企画#HEXPOのMATSUKO(@matsuko_blue)さんの壁画。一見ポスターのような趣もあって、トリックアートのような風合いもあり、古典的といえば古典的な描画ですが、真正面に立つとすごく不思議な感覚になるのです。没入感というか、まるで絵の中にいるような気分にさせられます。

MATSUKO-レインボー倉庫

MATSUKO-レインボー倉庫

完成の数時間前にお邪魔したときの様子です。このあともう少し加筆されているようなので、完成作品はぜひレインボー倉庫にて。

偶然にも、両名とも現実を切り取ったわけではなく、自分の中の理想の風景を描いているとのことでした。もちろんスケッチや写真を否定するわけではないですし、これは大げさに言うわけではないですが、絵を描くということでしかできないことです。ただ素朴に、絵の力を肌感覚で味わえたなと思う次第です。

美術(史)的には必ずしも革命的な作品ではないかもしれないけれど、もっと素直に「いいね」と評価できる、やさしい市場を作りたいなと思いを新たにした次第でした。

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