虚にして虚にあらず実にして実にあらず/三浦秀幸インタビュー

三浦秀幸の作品は構図配置が大胆な作品があるかと思えば、タッチの柔らかい作品も魅力的です。見ていて不思議な気持ちになる作風の背景にある考え方を伺いました。


表現したい世界観について教えてください。

絵を描くとはどういうことなのか、向き合ってきたつもりですが、正直なところまだ答えにはたどり着いていないんです。修了副論文執筆にあたっていろいろと考えを深めていくなかで、浄瑠璃作者の近松門左衛門がいう「虚実皮膜」という芸術論に出会って、いまはこれが自分にはしっくりくるような気がしています。芸術は虚構と事実との微妙な間に存在するという。虚にして虚にあらず実にして実にあらず、そんな姿勢で芸術を追求しています。

三浦秀幸 “ある日の午後の室内から”(2018)

モチーフのとらえ方に特徴があるような気がするのですが。

写真を見ながら描いていたこともあったんですけど、表面的な絵になってしまう気がしていて、最近はデッサンをベースにしているんです。写真から描くと、かたちがよくわからなくなってしまうんですよね。描いているのは油絵なんですけど、日本画がもつ繊細さみたいなものも取り込んでいきたいんです。

構図や配置も興味深いです。

どの作品も下絵をつくって、どんな構図にすると映えるかなというのは考えています。主役と脇役を意識しながら目線の流れを設計してみたり、あとはサボテンの作品2つがそうなんですが、同じモチーフを違うサイズで描いてみることで表現を深めたりもしています。画面の世界観へいざなうような絵と、モチーフのインパクトを重視する作品と両方取り組んでいるので、それによっても変わってきますね。

サボテンの作品が印象的なのですが、自然や植物をモチーフにすることが多いのでしょうか。

植物見るのは好きで、森を散歩したりもしますし、どこか有機的なものには惹かれるんです。思い返してみると家の後ろが山だったり、庭で植木を育てていたり、勝手に生えてきた木があったり、身の回りに植物は多かったのかもしれないですね。

油絵の先生がよくサボテンを描いていたんですけど、そのモチーフにしていたサボテンがあるとき枯れてしまったんですよね。ただそれを眺めていると、死んでいるんだけど、まだ生きているような美しさを感じて、それで絵にしてみたいなと思って描いた作品なんです。サボテンのまわりに明るい色を入れて生命感みたいなものも描いています。

三浦秀幸 “Still Life with a Cactus (サボテンの置いてある静物画) II”(2017)

第三者の目を気にするというよりは、自己主張というか、自分の中の内面的な想像を表現しているという根幹はあるんですけど、同時に表現に幅を持ちたいと思っています。下地の置き方とか、絵具の盛り上げだったり、あるいは手法に何か制限を加えてみたり、といった具合で試行錯誤もしています。修了制作展では2か所で展示したんですけど、サテライトスタジオで展示した作品はどちらかというと美術が好きじゃない人でも楽しめるような作品を、大学美術館では自己表現に寄った作品を展示しました。

今後は美術教員として歩まれるということですが、キャリア選択のイメージは以前からあったんでしょうか?

やっぱり現実を見据えると、絵具代稼ぎながら画業も続けるという選択肢は常に考えてきましたね。美術の先生になりたいという意識は大学受験の時からあって、国公立大学で美術系学科をもつところが九州ではほとんどなくて、教育系の学校に進むという選択肢もあったのですが、縁あって尾道市立大学の芸術文化学部に進学しました。ただ絵描きになるためにはもっと基礎体力を鍛えなければと感じ、大学院に進学し、公募展にも出品したりと、いろんな挑戦をしています。

今後の活動は、美術教員の傍らで公募展に出品したり、作品はコンスタントに制作していけるタイプだと思っているので、並行して販売作品を追加していけたらと思っています