直島本村ギャラリーにて開催した「暮らすように愉しむ」展は好評のうちに閉幕しました。窓の外に瀬戸内海と本村の古い集落を望む素敵な日本家屋に49点の作品を展示。瀬戸内国際芸術祭2019春会期最終週に、国籍を問わず多くの方にくつろぎながら鑑賞していただきました。
ご来場、ご購入いただいた皆さまに感謝申し上げます。
アート作品と民家の相性は想像以上によく、とても心地の良い空間となりました。離島での短期間の展示だけで終わるのはもったいないので、展示レポートとして振り返ります。
直島本村ギャラリーは本村港バス停の目の前にあり、海と集落の両方を眼下に望むロケーションです。
1階の土間から上がった正面に「マドンナ」が現れます。塩見真由さんはこれまでアルミ箔や段ボールなどの日用品を素材として立体作品を中心に制作してきましたが、本作はムンクの「マドンナ」をオマージュ。なるほどガムテープは肌の色だったのです。青写真はデニム地へのドローイング。併せて見ると、彼女のものの見方の一端を垣間見えます。
塩見真由 “マドンナ (Munch Painting)”(右)、“マドンナの青写真”(左)
ぱっと見のインパクトとは裏腹に、しばらく見ていると表情に惹かれていく、そんな作品です。
次の部屋では、絵本作家のミヤタタカシさんの絵本と原画を展示。初期の「まもりっこ」と近作の「迷子のうさぎ」の絵を向かい合わせに飾りました。原画に囲まれるかたちで絵本も読むことができ、ストーリーと場面を知ったうえで作品を眺めると、いっそう味わい深くなります。
ミヤタタカシ “迷子のうさぎ 04”(中央)
窓の外に海を望む廊下には緻密な切り絵作品を飾りました。作品の背後に浮かぶ影も含めて楽しめるのが切り絵の大きな魅力です。幼いころから独学で切り絵を極めてきた彼女の緻密な観察に基づいた生命の表現に、感嘆の声が漏れ聞こえていました。
Kiyora “Momentary”(上) , “Lotus flower and butterfly”(下)
蓮の花の向かいには、嗜好の違う花の絵画を展示。光の当たり方によっては毒々しさが際立つこの作品も、この穏やかな空気感のなかでは落ち着きがあります。
辻孝文 “Flowers Flowers Flowers”(右) , “Flowers Flowers Flowers 2”(左)
なかには「かわいい」という感想も。
1階から2階へのぼる階段部分には、千羽鶴にちなんで折り鶴の絵画1,000枚制作する”Orizuru Painting“シリーズを展示。階段を上っていくにつれ色彩が鮮やかさが増していきます。
有田大貴 “Orizuru Painting Series“
眼下に海を望む窓辺には、折り鶴をキャンバスに貼り付けた作品が並びます。精神性を物質的に表現したインパクトの強い作品も、海を眼前にどこかやわらかさを帯びます。
有田大貴 “Melt“
幅の広い床の間を贅沢につかって現代書を掛け、隣の窓際には「花鳥風月」を並べました。床の間は季節や客人によって飾りかえることを前提として作られており、額装されたものを掛けても全く違和感なく溶け込みます。両隣に抽象作品を並べたことで、「文字」の抽象的美学の一端にも触れた気がします。
抽象作品をひとつの部屋に展示してみましたが、そのなかでも最も抽象度が高いのがはるさん。横長のキャンバスに描かれた作品は、巻物のようにロールして持ち運ぶこともできる代物で、今回は小壁に張り付けてみました。
はる 「無題」
はる ”light,history”(左上)、”light, smile”(中央上)、”ダンス”(右)
木村翔太さんは絵画と彫刻の両方に取り組んでいるので、並べて展示をしました。電柱は彼の中心的なテーマの一つで、「虚構的な世界であっても、急に現実感が出る」存在と語っています。今回は窓の外に架かる電線と本村の家々を借景にしました。
木村翔太「欠陥にあらず、血管である」(左)「禍福は糾える縄の如し」(右・彫刻)「漣」/「塊」/「標」(右・絵画3点)
島の人たちは船舶などで縄を見慣れているからか、親しみを持って眺めていました。
緻密に層を塗りかさね作られたこの作品群。「他者と自己と作品の間にある距離感」について語っていましたが、作品の前で不思議そうに眺める人、対話するように見つめる人、なにかの機微を思い出した人と、それぞれに様々な向き合い方がありました。
土井紀子 “Esquisse #1”(上), “Esquisse #2”(中), “Esquisse #3”(下)
土井紀子 “Esquisse #4”(左), “Esquisse #5”(中), “Esquisse #6”(右)
家のまわりに巨大なきのこが茂っていたり、屋根に羊が住み着いていたり、ファンタジックな光景が広がっているにもかかわらず、不思議と直島にもこんな場所がありそうだと島の人たちは笑います。
人が住まなくなった家屋に植物がまとわりついていく様に「自然が人工的なものを飲み込んでいく生命力」を見出した作品群は、翻って人が住まなくなりギャラリーとして生まれ変わった家屋を彩りました。
野間美鈴 左から順に、「きのこハウス」、「路」、「ひつじ」、「棲む」、「並んだ…」、「樹」、「発」、「トマト」、「ここから」
“Oh, Kinoko House!”と喜ぶ姿は万国共通。
もっとも改装前の趣をとどめている2階の廊下。階段を登った正面には「ある日の午後の室内から」というタイトルそのままの作品が正面に見えました。尾道と長崎というどちらも多島美を誇る地で創作を行ってきた彼の作品は、海を目に前にしたこの建物にとてもなじんでいました。
三浦秀幸 “ある日の午後の室内から”(正面)、“海辺の風景”(左)
三浦秀幸 “ある男” 「かっこいい外国人」が優しく見守る会場でした。
ギャラリーや美術館といったホワイトキューブに展示するのではなく、民家に大切に飾ることによって現れる作品の魅力を感じられた展覧会でした。
期間:2019年5月21日(火)-5月26日(日)
時間:10:00-17:00
場所:直島本村ギャラリー
住所:761-3110 香川県香川郡直島町本村841
出展アーティスト:有田大貴(絵画)、岡本知子(書)、木村翔太(絵画・彫刻)、Kiyora(切り絵)、塩見真由(彫刻・絵画)、ミヤタタカシ(絵本・絵画)、辻孝文(絵画)、土井紀子(絵画)、野間美鈴(絵画)、はる(絵画)、三浦秀幸(絵画)